秀逸な技法のリング
今回は修理でお預かりしたリングについてのお話です、残念ながら今はこんなリングをつくれる職人はほとんどいなくなりました、時代のながれと言えばそれまでですが、こんなに腕のいい職人が戦後の日本を支えていてくれたんだな~と、つくづく感心させられます。
正面から見ると、昔おばあちゃんが指にはめていたようなリングのデザインです。石はメキシコオパールで、これも昭和の30年代ぐらいに全盛だった宝石です、ちょうどアンティークと古臭いの分かれ目に位置するこのデザインですが、特筆すべきはその裏側
「千本透かし」と呼ばれた技法は、細い糸鋸で鉄格子のように一本づつ切り抜いてあります、さらにその上にはダイヤの石座をこれまた板状のプラチナから糸鋸とヤスリで削り出してあります、もちろん似たようなデザインを現代でも作れないことはないのですが、ここまで精緻につくるには、当時であれば地金を溶かして固めて伸ばして削って、気が遠くなるような作業の繰り返しが必要だったはずです。こんなことが出来る職人さんから見れば、私たちの仕事はママゴト遊びぐらいかもしれません、現代は日本の輝かしい伝統が少しずつ消えてゆこうとしています、なんとか残していくためには、私もふくめてお客様が、見る目を磨き、すばらしい技術や製作過程についての価値を認めて、理解していただき、少し高価であっても国産の商品を買っていただき、大切に語り継ぐことが一番の救いだと思っています。